どうも、Champignon(きのこ)です。
なかなか面白い記事が最近飛び込んできました。
マイクロソフトが亡くなった人の声をまねるチャットボットを作る特許を申請
このニュースを見たとき、
「アイデアとしては面白いけど、なんか倫理的な面で議論が起こりそうな発明やなー」
って感じました(案の定、日本、海外含めSNSで盛り上がってましたね。)。が、せっかくAIも法律も少しかじっている私なので、この特許についてもう少し深堀していこうかなーと思います。
後半は英語の勉強にも使っていただけると思います。
特許って?
技術的発明を「世の中に公開する」代わりに、「一定期間」「独占して使える」権利のことです。
なぜこんな制度があるかというと、「技術の進歩」と「発明者の保護」の両方を実現するためです。
人間は常に発明をして進化してきたわけですが、事業活動において発明をした場合、企業などはそれを独占したいから、隠します。
そうすると、人類の技術進歩が止まってしまいます。
一方で、企業は新しい発明をビジネス化したとしても、他人が後から同じ発明をするかもしれない、、、という状態におびえながらビジネスをすることになり、ビジネスが不安定になったり、思い切った投資ができなくなってしまいます。
そこで、(繰り返しになりますが、)「技術の進歩」と「発明者の保護」を実現するために特許法が生まれました。
(だから、特許を受けるには、発明を公開する必要があるんだね。)
マイクロソフトの特許ってどんなの?
先述の通り、特許は公開されているので、検索してみました。
Creating a conversational chat bot of a specific person
はじめて見る方はギョッとされるかもしれませんが、本当にざっくり知りたいのであれば、”Description”の”Background”や”Summary”をさっと流せばいいと思います。もし英語が苦手な方は、そこだけコピペしてGoogle翻訳に放り込むか、若しくは文法がわかるけど単語がわからないという方は、【TOEIC800点!】Reading(リーディング)で分からない単語を効率的に覚える方法【自作単語帳】でご紹介した方法を使っていただくとスムーズかと思います。
もう少し詳しく知りたい方は“Claim”を読んでみると面白いです。さきほど、特許権のお話をしましたが、発明というのは概念的なものであり、独占権を与えるからには、客観的に、どこからどこまで(範囲)独占権が及ぶのか、ということを知れる必要があります。そこで、必要になってくるのが、この“Claim”です。特許権の「範囲」はこの“Claim”によって決まるのです。日本では“請求項”といったりします。この”Claim”は重要なものを順番に書いていくことが一般的です。すなわち、
【”Claim”の前半の方を見れば、だいたいの特許権の範囲はわかる。】
ということになります。
ということで、続きは、”Summary”(ざっくり発明の内容を理解)と、”Claim”の少し(発明がどんな権利範囲か深堀)を見ていきたいと思います。
Summary
a conversational chat bot of a specific person (or specific entity).
→特定の人や団体の会話チャットボット。すなわち、冒頭に引用したニュース見出しでは、センセーショナルにするために、「亡くなった人の声をまねるチャットボット」なんて謳ってますが、別に死んだ人に限定しているわけではなく、「今流行しているお問い合わせ対応などに使われるチャットボットではなく、パーソナリティも学習したチャットボットができますよー」って言いたいんだと思います。
social data (e.g., images, voice data, social media posts, electronic messages, written letters, etc.) relating to the specific person
→画像、声、SNS投稿、電子メッセージ、手書きの手紙などが学習データとして使われるようです。チャットボットだけであればテキストデータだけでいいのかもしれませんが、のちに出てくる「声」や「2D化」、「3D化」にはこれらのデータが必要なのかもしれません。
a voice font of the specific person may be generated using recordings and sound data related to the specific person.
→「声」でてきましたね。録音や音声データから「声」を生成すると記載されています。SiriやGoogle Assistantなどですでに実用されているような技術を応用するのでしょうか。
a 2D or 3D model of the specific person may be generated using images, depth information, and/or video data associated with the specific person.
→「2D」と「3D」が出てきました。これらは、画像データや画像の深度データ(「3D」の場合、必要になってくると思われます。他の技術で2Dを3DっぽくするAIも開発されていますが、この特許を出願したときには、まだそのような技術はなかったのでしょうか。それとも実データがある分にはAIを使って予測するよりも正確な「3D」が出来上がるからでしょうか。)、さらにビデオデータを生成に用いるようです。
Claim
こちらは、この特許に添付されている画像を見ていただくのが一番わかりやすいと思います。
「チャットボット作成のリクエストを受ける。」→「特定の人の先述のような情報にアクセスする」→「特定の人に関するデータの塊を作る」→「チャットボットを訓練する」
この一連の流れが「発明」として登録されています。画像にはないですが、チャットボット作成後、
「チャットのリクエストを受け取って」→「返答する」
ところも含まれています。
それ以外で面白いと思った”Claim”が3.にありまして、
user profile information, behavioral data, transactional data, and geolocation data.
→プロフィール、行動データ、位置情報も学習に用いる可能性が示唆されていました。先述のデータくらいであれば、AIを少し勉強したことがある人ならば当然の発想としてでてきそうです。しかし、一見、「行動ターゲティング」に使われそうな情報を含んで、チャットボットを作るのはなかなか面白いと思いました(先行研究がありそうな雰囲気もありますが)。学習データが多いに越したことはないのかもしれませんが、これらの情報がパーソナリティ獲得に寄与するのか、気になるところです。
まとめ
話題になっているマイクロソフトのチャットボットに関する特許を少しだけ深堀してみてきましたが、いかがでしたでしょうか。
こちらのニュースでは、
同社のAIプログラム担当ジェネラルマネジャー、ティム・オブライエン氏は22日、「(製品化の)計画はないことを確認する」とツイートし、「確かに心をかき乱される」とユーザーからのコメントに書き込まれた感情に理解を示した。
オブライエン氏によると、マイクロソフトがこの特許を出願した2017年4月の時点ではまだ、AI倫理をめぐって現在のように厳しい目が向けられていなかった。
ということで、製品化の予定はなく、また倫理的議論を呼んでいることについても、マイクロソフト側も認識を示しているようなので、亡くなった人をチャットボット化、3D化することはしばらくなさそうです。
一方で、有名人と疑似会話できるエンターテイメントとして、また、バーチャルインフルエンサーを作り出して広告宣伝に用いる、など用途は幅広そうだと感じたので、その方な方向で実用化されることは、今後あり得るのではないかと思いました。